映画「ナイル殺人事件」(2022)ネタバレ感想/船の上の悲劇

エルキュール・ポワロのファンなので見てきました、ケネス・ブラナー版「ナイル殺人事件」。

原作は15年くらい前に読んだきりで、その後デヴィッド・スーシェのドラマ版、1978年の映画版も見ています。どれも細かいところ忘れてしまったけど…

ミステリ読んだり見たりしても犯人当てがほとんどできないしあんまりする気もないタイプなんですが、
「ナイルに死す」だけ、クリスティー作品読んでて唯一犯人当てができたのを覚えています。

他は毎回わかってません。毎回驚いてる。
というか「ナイルに死す」も犯人が分かっただけなのでほかのところで相当驚いてる。
良質なミステリって本当に読むの楽しいよね…

ケネス・ブラナー版ポワロは前作「オリエント急行殺人事件」で「今までにないポワロ像」と言われてましたが、
今回も今までのポワロの映像化作品とはまた一味違う感じで面白かったです。

あとこのご時世、綺麗な映像で豪華客船に乗って旅行する映画が見れるのは単純に楽しかった…

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【はじめに】

今回も鑑賞済みの方向けに書くのであらすじとかキャストとかは省略します。
必要なリンクだけ貼っておきますね。

www.20thcenturystudios.jp

youtu.be

以下はネタバレを含みます。

あと最後のほうに、ケネス版ポワロで「アクロイド殺し」撮ったら面白そう~~と妄想してる箇所があるので、そこだけ白い文字で書いておきます。

つまりPCで読んでる人はドラッグしてくれ。スマホの人はごめん。大したこと書いてないから別に読まなくていいやつです。

アクロイド殺し」を小説とかドラマとか、何らかの形で履修してる方以外はその部分をドラッグせずに読み飛ばしてください。

私はあなたが羨ましい。「アクロイド殺し」をなんも知らずにこれから読んだり見たりできるあなたの脳が…

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ツイッターで感想を読んでたら
「ミステリというよりシェイクスピア悲劇」
と言われてて、私も同じ印象だった。
舞台演劇みたいで不思議な感覚…

日本版キャッチコピーの「極上のミステリークルーズ」も胸が躍っていい響きですね。

【演劇っぽさ】

・舞台演劇みたいな印象は、絢爛豪華な場の設定とか、
立場や役割がはっきりきっぱり分かれてる登場人物たちとか、
演出だとかカメラワークだとかいろいろあるだろうけど、
そもそも今回のトリックが生の演劇なのでそりゃそうなるんだな

・実際は愛し合っている二人が豪華客船を舞台に「愛を失った男女」の役を演じる

・観客の前で派手な喧嘩を繰り広げて、
嘘の銃弾で撃ったふりと撃たれたふり、
錯乱しているふりと怪我して足が動かない歩けないふり、
失った愛を何としても取り戻そうとする哀れな女のふりと愛する妻が亡くなって激しく嘆く男のふり

・最初のホテルのシーンで
「さあみんなわかりやすくリネットを殺す動機のある役者を揃えましたよ~~!!」
って次々と紹介してくのも演劇の開幕って感じでよかった

・富を憎むマリー、宝石を羨むルイーズ、明らかに結婚を祝福していないウィンドルシャム、腹に一物抱えてそうなアンドリュー

・…と来たところで最後にジャッキーが、パーティに呼ばれてないのにやって来た魔女みたいな感じで現れる。悪夢っぽくてよかった

・この辺のシーン、ジャッキーの歩いてる場所と室内とがつながって見えなくてちょっと不自然だった。これは後述


【名優ぞろい】

・ジャッキー役のエマ・マッキー、情念の女って感じですごくいい。
三白眼でポワロに自分の計画(嘘)を話してるとことかすごく好き

ユーフェミア役のアネット・ベニング様のお顔とお声があまりにも最高すぎてメロメロになってしまった…
キャプテンマーベルの初代マー・ベルなんだね

・犯人自白のシーンでポワロと一緒に銃をつきつけたサロメ・オッタボーン(ソフィー・オコネドー)の首をかしげる仕草、作中最高にかっこいいモーメントでしびれた


【シーンのつなぎ方がところどころ不自然?】

・「冒頭のダンスシーンとか、アーミー・ハマーの顔があまり映らないようにしているのでは」
という指摘をツイッターで見かけてちょっと納得したんだけど、ところどころ編集不思議だったよね

・変にシーンが飛んでるようなところがいくつかあって、
それがアーミー・ハマーの映ってるシーンをこまごまとカットしているのだとしたらなるほどな…と思った

・ジャッキーに撃たれたサイモンが次のカットではすでに白いハンカチで傷を押さえてるのが早くて不自然だとか…
いやここは「撃たれることを予期していたかのように早々とハンカチを取り出してる」不自然さを演出してるとも解釈できるけど


ワンダーウーマン

・冒頭のサイモンとリネットのダンスシーン、
リネットは優雅に踊ってるんだけど途中で上半身をグワーッと後ろに倒したあとそのままふわっと起き上がるところがあって、
ワンダーウーマンの腹筋じゃないとできない技じゃん」
とおののいた

・筋力すげえ


【ブークくんの末路】

・前作オリエント急行殺人事件でブークくんを好きになってた方が
ナイル殺人事件を見た…」
とだけツイートしているのを見たので、
何かブークくんによからぬことが起きるか、
悪者になっちゃうか、
またはブークくんとポワロが決定的に決裂するかしたのかな…
とぼんやり思ってたんだけど

悪事を働いてポワロから尋問されたうえで和解もしないまま最中に死ぬ、まさかの全部のせ

・私も前作でブークくん好きだなと思っていた人間なのでなかなか悲しかったです。
おおブークくん…私の中でブークくんはオリエント急行で記憶を止めたい…死ぬな…


【ラストの悲劇性】

・原作を読んだのが相当昔なので細部を忘れているんだけど、
なんとなく原作は最後若いカップルが成立して意外とハッピーな後味もある豪華客船世界旅行ミステリ、ってイメージだった

・そしたら今作はラストでサイモンとジャッキーは心中しちゃうし、
ブークを喪ったユーフェミアとロザリーが哀しく去っていくし、全然悲しかったね…

・最後にサイモンとジャッキーがみんなの前で、たった1発の弾丸で自分たちの胸を貫いてずるずると死んでいってしまうのを誰も止められない、
というのが近代悲劇っぽくてよかった

・後半になればなるほど人死にのスピードが加速していくのも悲劇っぽいよね。それこそシェイクスピア悲劇って終盤にどどどっと人が死ぬイメージがある


【バワーズとマリー】

・看護師とマダムじゃなくて愛し合うカップルであるというのはよかった。
なんとなく男性カップル女性カップルって男性カップルのほうが映画での登場回数多いなと感じるのもあって

・序盤で「労働者を搾取する側にはなりたくありませんからね」とツンと歩いていくマリーに
「とか言って私に鞄運ばせるのはいいんですかね」とブツブツ言いながら鞄持って行ってあげるバワーズ、
あとから考えるとカップルの痴話げんかって感じでかわいい

・使用人と主人というカムフラージュのためにある程度わざとやってるんだろうけど、二人きりのときも
「資産嫌いとか言ってるくせにいっつも荷物重すぎ」
「はあ?それくらい運びなさいよ」
とか言い合ってるケンカップルなのかなと思うとめちゃくちゃ萌えました。ありがとうございます

・ポワロに見抜かれたとき咄嗟に抱きしめ合うのもめちゃくちゃ健気でかわいい…

・今作において愛する人がいる者は自分が死ぬか相手が死ぬかしま~す」という呪いにかかってるS.S.カルナック号、
このカップルだけは無事に生還したのでほんと幸せに暮らしていってほしい


【幸せになってくれドクター・ウィンドルシャム】

・みんな言ってるけど医者のウィンドルシャム先生、
「政略婚約だった女性に本気で恋をしてしまったが振られる
「その女性の結婚記念パーティに呼ばれて長尺バウムクーヘンエンドを味わう」
「挙句その女性は自分の目と鼻の先で殺される(しかも犯人が新郎)」
「殺人の容疑者になる」
「医者として居合わせたために死体の見分と管理をする羽目になる」
「メスを盗まれ殺人に使われる」
とただただかわいそうないい人だったので、西アフリカで仕事に精を出して人生を謳歌してほしい

・観客は多分みんなあなたのこと大好きだよ


ケネス・ブラナー版のポワロ像】

・尋問相手に怒鳴りつけたり、わかりやすく精神的に追い詰めたり、
銃を構えて謎解きしたりというのは確かに今までの映像作品のポワロっぽくはないけど、
新しい解釈をする分にはいいんじゃないかなと思う

・私はポワロの
「女性に対して礼儀正しく(年若い侍女相手でも敬意を忘れない)、
若者カップルの未来を応援するちょっとロマンチストで素敵なパパ・ポワロ」
みたいなところが好きなので、今回ロザリーがポワロのことをなじるシーンはちょっと辛かったな。
ポワロの今回の頼まれごとはすげえ失礼なのでロザリーは切れて当然だけど

・ブークくんが目の前で撃たれたときに「モナミ」って駆け寄るところの声の悲しさはさすがケネス・ブラナーだった…

・この作品においてはポワロの生涯で愛した人はカトリーヌだけっぽいから、
ロサコフ伯爵夫人とのロマンスは特にない世界線なのかも

 

アクロイド殺しのネタバレ話するから未読の人は飛ばしてください★

↓↓↓↓↓↓

【ケネス版ポワロで「アクロイド殺し」】

やるとしたら(ここからしばらく白文字)というかもしかして今作で彼が退場したのって次作がアクロイド殺しだから?

ケネス版「ナイル殺人事件」見たら、「引退したら品種改良のカボチャを」の言及とブークの退場をあわせてみんな
「お、次はアクロイド殺しか?」
って期待すると思うんだけど…

ケネス版ポワロは今のところヘイスティングズ大尉がいなくて、
助手ポジはブークくんが担ってくれてたから、

もしアクロイド殺しをやるならブークくんは必然的に出てこれないよな…なぜならアクロイド殺しはシェパード医師が助手ポジとして登場するので…
と考えただけです。

次作がアクロイド殺しだとしてもブークくん死なせずに普通に欠席させればいいだけなんだけど、
それこそ「アクロイド殺し未履修だが勘のいい人」がいた場合、
「これまでの2作でポワロの助手役を務めていたブークが今作にはいない…つまりこの助手役は絶対に入れ替え不可能なキャラクターということ…!」
とピンときてしまう恐れがあるからね。

いやそこまで勘のいい人はアクロイド殺し未履修だったとしてもそれまでの人生でなんらかのタイミングでアクロイド殺しのぼや~っとしたネタバレに触れて「ムム!?ということはアクロイド殺しはつまり…!?」って勘づいてそうだけど。

アクロイド殺しの白文字ここまで★

 

2020年からずっと公開延期、公開延期…と続いていて「早く見せてくれ~~~」と思っていたのでやっと見れてほっとしました。
演技うまい人たちの演技見るの最高だよね…

前作オリエント急行殺人事件よりも鑑賞後ズーンと来るタイプの作品でしたけど、
相変わらずそつのない、お見事な映像化だったなと思います。
令和に新しいポワロの映像作品が見れるのはやっぱり嬉しい。

上記で妄想してますが、ケネス版のポワロでアクロイド殺し、もしやってくれるならぜひ見てみたい…
もちろんほかの作品でもいいから続編待ってます…