映画「レミニセンス」ネタバレ感想/いつも遅刻する男

「記憶の世界に潜入していく」というSFストーリーで、
リサ・ジョイ&ジョナサン・ノーランの夫婦がタッグを組んで作っていると聞いて、
そりゃ見ないわけにはいかんだろ…ということで見てきました。

日本国内での広告では「SFサスペンス超大作」と銘打たれているものの、実際に見に行った人たちからは、

 ・むしろラブロマンスが主題

 ・フィルム・ノワール的、ハードボイルド的

という評も出ていたのですが、
私はSF大作もラブロマンスも大好きなので問題ね~~~んだなこれが!!
(ハードボイルドは好きなのかわからない、ときどき突っ込みながら見る)

先に見ていた人たちが教えてくれたおかげでその辺の期待とのギャップは感じることなく、
素直に楽しく、ところどころでは泣いたりしながら鑑賞できました。

 

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【はじめに】

今回も鑑賞済みの方向けに書くのであらすじとかキャストとかは省略します。

必要なリンクだけ貼っておきますね。

youtu.be

wwws.warnerbros.co.jp


以下はネタバレを含みます。

あとごめん、前半に「インセプション」のネタバレが含まれるので注意してください。
そこだけうす~い文字で書いておくので未見の方は薄目で読み飛ばしてください。

 

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物語全体がすごく好きな話というよりかは、部分部分で
「ああこれがやりたかったのかー!」
ってシーンにぐっと来たり、
「その方式は今までに見たことなくて好きだな…」
と思ったり、瞬間最大風速的にいいなと思う映画でした。

【全体のこと】

・いろんな人が言ってるけど、
※ここインセプションのネタバレ※
「モルとコブが相変わらず引き裂かれるけどコブが夢の中で二人きりで生きていくことを決めました」
というインセプションのif設定みたいな感じ。
インセプションのネタバレおわり※

・音楽をラミン・ジャヴァディ先生がやってるって知らないで見に行ってたので、
クレジットで声出しそうになった

・そういえばあのギター音思いっきりジャヴァディサウンドじゃん!!!

・「パシフィック・リム」と「パーソン・オブ・インタレスト」の音楽が大好きなので私はジャヴァディ先生に頭が上がらないんですよ…

・今回もギター音がせつなくて皮肉でよかった…

【SFとしての世界設定】

・「世界が海に沈みかけてて、暑すぎて人類は昼夜逆転してる」
っていうSF設定すごく好きだったので、
それがただの背景と美術で終わっちゃうのがもったいないからこの世界設定でまた違う話も見たい…

・いや、単に背景と美術で終わってはないんだろうけど

・「過去の夢に浸ること」⇔「昼を避け夜を生きるようになった人類」とか、
「水に浸されてもうすぐ飲み込まれてしまう終わりかけの世界」⇔「水に浸されて過去に潜ることができるけどやりすぎると二度と戻ってこられなくなる」とか、
ちゃんと計算されてるんだとは思うんだけど!!

・でもあまりにSFとして設定が好きだから…もっと見たいから…

【出ていた役者さん】

・「豊かな財産と地位があるものの女性に対する振る舞いでぼろを出し身を持ち崩す金髪の壮年男」役でおなじみのブレット・カレンさんがおなじみの役どころで出ていて何かの契約を結んでいるのかとさえ思った

ハンサムで金持ちのダメ親父役があったら必ずカレン氏に依頼するみたいな 今回も素晴らしい説得力でした

・個人的にエルサ役の人がめちゃくちゃストライクだったんですけど…
なんで殺されなきゃいけなかったの…悲しい…

・調べたらウエストワールドに出てるのか…見れば彼女に会えるのか…

【ニックとメイ】

・「まあそう来ればそうなるわな…
という展開の連続だったので、特に予想外のところから刺されてギャー!って萌えたりはせず、私の精神は穏便に済んだ

・そりゃ退役軍人で、自分の男らしさの行き場を失ったまま好きでもない仕事を金のために何とか続けてるところに目を見張るような美しい金髪の若い女が現れたら瞬く間に恋に落ちるだろうし、
蜜月を過ごしたら短い間でその女は消えるだろうし、
消えた女の残した謎を拾いながら行方を追ったら女の暗い闇が暴かれるだろうし、
その裏切りにめげずに追えば女の方にも確かに少なからず愛があったことは判明するだろうし、
けれども真相にたどり着くころには女は永遠に手の届かないところに行ってるだろう

・この辺は「ありがちでつまらなかった」というのではなくて、
ハードボイルドのお約束をきっちり踏襲しているというか、
作りたいものの文法に則って正確に作られた作品だなという感じ

【ニックとワッツ】

・個人的にはニックとメイの物語よりもニックとワッツの物語が好きかな、
と思うのは、二人の最後の会話がいいなと思ったから

・ニックの罪の告白を聞かされてその証人になるのも、ニックが罪人として捕まってしまうのも嫌だから断ろうとするワッツに、
「これからも君のそばにいるよ。君もこれからも俺の傍にいてくれ」
と話すのは、二人が記憶潜入装置の仕事をずっと一緒にしていたからこそ何の補足もいらない言葉になったわけで、あのセリフがすごくよかった

・このシーンが一番好きで、
「俺の友達は君たった一人なんだ」
というニックのセリフもよかった

・「ことの始まりはあの"なくなった鍵"だ…」
って物語り始めるところでもう映画エンドロールに入っちゃっていいと思ったくらいに好き

・男女のラブロマンスと同じくらい男女の友情が好きな私としては、
ワッツからニックへの感情が恋愛ではないバージョンの脚本も読んでみたいと思ったな

・恋愛として描かれてもワッツがニックを何とか救おうと奮闘する姿に十分説得力あったけど、友情バージョンでも描ける気がするんだよな

・というか麻薬の売人の本拠地に銃一つで単身乗り込んで助けに来てくれるって相当すごいことだよね

・あれに関してはニックに「もっとワッツに感謝しな!!?」と言いたい

【いつも遅刻する男】

・作中でニックが「遅い」「遅刻だ」と言われるのが異様なほど繰り返されるので、
何か意味があるんだろうなと思ってたんだけど

・それが「最後の最後でニックは間に合った」につながるのか、
「ニックは大事な時に間に合わない」が通奏されるのか…
と考えながら見てたら後者だったね

・ニックが遅れなければ、
過去に答えがあると拘泥して今目の前のことをおろそかにしなければ、
あのノックに間に合ってメイを救うことができたのかもしれないのに、
ニックはいつも遅い

・だから大事なときに間に合わない
そして起きてしまったことはもう取り返しがつかない

【映画の落としどころ】

・この映画のそれでも新しいところは
「大事な時に間に合わない愚かな男、悲しいね。
人間ってやっぱ過去なんかにとらわれず前向いて生きたほうが絶対いいよね。
~完~」
とはしなかったところ

・人は過去や記憶に取りついて亡霊になって目の前の大事なチャンスを逃し、
永遠に失ってしまうかもしれない

・でもそうなったとしても、そのまま過去を向いてしまっても別にそれはそれでいいんじゃないの

・前向いて新しい未来に向かって生きていくのと同じくらい、
過ぎ去って二度と手に入らない日々を慈しんでいくのもその人にとって大切なんじゃないの

・…というのを映画の着地点にしたところが優しいなと思う

・ニックがメイのノックに間に合わなかったことを知ったあたりで話を終えるとか、
この映画をそういう説教臭いテーマにしちゃうことはいくらでもできたはずなので、
そうしなかったあたりが優しい

・私も過去のことをいつまでも思い返して浸るタイプの人間なので、「別にそれでいいんじゃん」と言ってもらえた気がして心が慰められたな…

【男と女】

・リサ・ジョイ監督の作品は初めて見るんだけど(ウエストワールド未履修)、
あんまり男と男、女と女のクソデカ感情みたいなところに興味ないのかもなと思った。
レミニセンスだけ見た時点では

・男と女がどうつながれるかみたいなところの機微はすごい丁寧に考えてくれそう

・ブースがあのたったワンシーン、愛しい人に向ける目でメイに語り掛けられたことで、
メイのことを忘れられなくなって、赤毛の女にまねごとをさせてたのが哀しくてよかった

【演劇っぽいシーン】

・タマラが夫との若いころの回想に浸って永遠に同じダンスを踊るのもよかった

・あのシーン全体的に好きだった…

・館に足を踏み入れると螺旋階段があって、
上から降りてくる人物や廊下で待機している人物がみんな同じ格好をしていて、
マグリットの絵みたいにおかしい

・でニックにも同じ衣装が渡されて、
「台本通りにやれよ」と言われてタマラの回想と全く同じ見た目のセットに入る

・ここがマジで演劇的でよかった…!

・決められた舞台で決められたことを同じように繰り返す、
役者は結末を知っているし同じことを何度でも繰り返せるのに、まるで今日が初めてみたいに言葉を発する

・しかもその「上演」はひとたび邪魔が入れば簡単に崩れてしまう、
例えば役者自身が衣装の帽子を脱いで台本にない言葉で目の前の相手を尋問すれば

・大変私好みのシーンでした…

【過去のメイと現在のニックの再会】

・当然この映画のクライマックス、
「未来に向けて話すメイと過去に入り込んでその言葉を受け取るニック」
のシーンも好き

・ああ~~~~これがやりたかったんだ…なるほどね…と思いながらもやっぱりよかった

・このシーンを作るには、
「メイは"未来"に向けて語り、ニックは"過去"からその言葉を受け取る」
という形にする必要があるんだけど

・ここでメイが語る未来を
「私は本心からあなたを愛しているけど、私はもう過去だから、今を生きているあなたは前に進んでね」
とか言わせるのは簡単だったはずで

・でもそうじゃなくて「子どもを救って」とするのがよかった

【ギリギリ間に合う女】

・ニックの今後の人生についてメイが指図することはなくて、
でも「子どもを救う」という未来をメイとニックは実現できる

・ニックはいつも間に合わない男だけど、メイはギリギリ間に合う女なんだよね

・ギリギリのところまで身を持ち崩すし、
ニックに本当のことを打ち明けて助けを乞うことも、目の前で殺されるエルサを救うこともできないけど

・でも最後の最後でフレディを安全な場所に逃がすこと、
死ぬ間際に未来のニックへ向けて本心からの愛を言葉にすることだけは間に合った

【人間の最低限の良心の発露】

・最後のメイとニックの会話のシーンと同じくらい、
メイがフレディを逃がすために船を出すシーンがかなりドラマチックで好き

・ここが一番泣ける

・ニックはちょっと暴走気味で感情移入しづらいキャラだし、
複雑な背景のあるワッツに感情移入しきるのはむずかしいし、
ファムファタールで物語の謎そのものでもあるメイは言わずもがななんだけど、
たぶんこの瞬間ほぼ初めて感情が揺さぶられたな…

・退廃的な世界で、あんまり善人っぽい善人が出てこないし、
確かにメイも善人ではないんだけど、それでも

「そうは言っても子どもはダメやろがい!!!!」

という全力の叫びみたいなフレディ救出シーンが一番心に刺さった

・年々こういう「人間の最低限の良心の発露」みたいなところに涙腺が弱くなってる…

・隣人愛というかなんというか…
もはや恋愛でも友情でもない、人としてきっとこうするだろう、どうか自分もとっさのときにそうでありたい、みたいな

・SF作品を摂取しててぐっとくるところって結局こういうところなので、
そういう意味ではレミニセンスも私の好きなSF作品の要件を満たしていました

 

というわけでレミニセンスの感想でした。

見終わった直後は「あのシーンとあのシーンの感想書いて15行くらいで感想書けそうだな」と思ってたんだけど、
いざ書いてみたら長かったね。4500字くらいあるねこれ。

IMAXで見るとあの世界観すごい迫力なんだろうな~、IMAXでも見てみたいな…